FC2ブログ

第八章 時間くん

 
・始めにお詫び
更新すみません…それからもう一つ、このアリスパロの文章の更新はこれで最後になります…。
途中まで考えていた続きが、学校が始まり、忙しい日々のせいで一気に吹っ飛びました…orz
更新を楽しみにしてくださっていた方々、こんな中途半端な所で終わることになってしまい、本当に申し訳ありません。
しかし、また別の連載を始めることがあるかもしれません。その時はまた何とぞよろしくお願いします。
 
 
 
 
 
女王様に導かれるままに広間へ来た私。女王様は広間へ出るなり突然私に抱きついた。何度されても慣れない抱擁での挨拶。一人で焦っていると「おかえりなさい、私のアリス」と女王様が今までとは違う言葉を言った。今まで会った人達は皆、私(僕・俺)たちのアリス、と言ったけれど、女王様は私のアリス、と言った。
「私、の?」
「そうよ。アリスは私のものになるんだから、首だけでね」
そう言うと女王様はどこに隠していたのか身の丈程もある巨大な鎌を取り出した。死神が持っているイメージのあるあの巨大な鎌。その鎌を横に構えて「じっとしててね」と言うと思いっきり振った。
間一髪で避け、髪の毛が数本舞うだけですんだ私。恐怖から足に力が入らずそのまましゃがみこんでいると、「動いてはダメよ、アリス。顔に傷がついたらどうするの?」と言い再び鎌を振り上げた。振り下ろされる前に何とか立ち上がり、女王様の背後に伸びる階段をかけあがった。背後から「待ちなさい、アリス」と言う声がしたけれどそれを無視して長い廊下を走る。適当な部屋に入り扉の前に立って耳を澄ましていると、「アリス、どこに行ったの?」と女王様の綺麗な声が聞こえた。
「アリス、猫はあなたを惑わすわ。猫なんかと親しくしちゃダメ。心臓をなくすわよ」
猫は私を惑わす、イモムシも言っていた。なぜ皆チェシャ猫と私を近付けさせたくないんだろう?
「アリス…お願いよ。ずっとここにいて?首だけになればもう悲しまなくてもいいの。ここにいれば傷つかずにすむの」
 
ダメだ有子…聞くんじゃねェ。女王様の言葉に耳を傾けるな。
 
女王様の言葉の誘惑に負けそうになった時、どこかで聞いたことのある声が頭に響いた。チェシャ猫でも、森の妖精でも、イモムシさんでもない。これは…
ジリリリリリリ!!
「!!」
今まで静かだった部屋に突然時計のアラームの音が響いた。ビックリした…
よく見ると私の入った部屋には様々な大きさの大量の時計があった。時計はそれぞれバラバラの時間を指していて、時計に埋め尽くされた部屋の奥には薄暗い牢屋のようなモノがあった。牢屋の方へ歩いて行き、牢屋の中を覗きこもうとした時アラームが一層大きく鳴り響いた。
ジリリリリリリリリリ!!!!!!
「ああもう!うるさい!!」
そう叫んだ瞬間時計の針が動きアラームはピタリと鳴り止んだ。代わりに牢屋の中から男の人の声が聞こえた。
「ああこれはこれは、申し訳ないでござる。人が入って来たのに気付かなかった」
中を覗いて見るとそこに声の主がいた。青い髪に青いロングコートを着てサングラスをかけた男の人。牢屋の中にあるベッドから起き上がり、サングラスをとってこちらに近づいて来た。
「よく帰ってきたでござるな、アリス。…申し訳ないが、鍵を開けてはくれぬか?」
「あ、はい!」
壁にかけてあった鍵で牢屋の鍵を開けると、「ありがとう」と言って牢屋の中から出てきた。この人も見た目は普通だ。ただ今まで会った人達の中で一番…いや、イモムシさんくらい背が高いだけだ。あとは、喋り方が古風だ。この人が時間くんなのだろうか、と目の前にいる人をジーッと見ていると「さて、」と言って私の腕を掴んだ。(多分)時間くんに引っ張られながら階段を降りて再び大きな扉の前に戻ってきた。押してみても相変わらず扉は開かない。
女王様には会わなかったが、代わりに別の女の人の声が広い広間に響いた。
「何してるッスか!!」
階段を降りて来る見た目は普通の女の人はさっき会った女王様と全く同じドレスを着ている。ただ、色が赤いだけだ。
「これはこれは女王陛下…」
「え!?女王様!?」
赤いドレスに金色の髪の毛、女王陛下と呼ばれたその人は眉間にシワを寄せてこちらに近づいて来た。私達から少し離れた場所で歩みを止めたその人は、「時間くん、なんでそこにいるッスか」と私の隣に立つ時間くんを睨みながら言った。
「優しいアリスに助けてもらったでござる」
「アリス?」
私に気付いた女王陛下はニコリと微笑んで「おかえりなさいッス、私達のアリス」と言うとまた時間くんを睨んだ。表情を変えないどころか女王陛下を見ようともしない時間くんに腹が立ったのか、裾から何かを取り出した。黒く光るソレは、小型のピストルだった。その銃口を時間くんに向ける女王陛下。このままでは時間くんが殺されてしまうと思い時間くんと女王陛下の間に立ちはだかった。
「どいてくださいッス、アリス」
「あの…その…、な、なんで時間くんを捕まえるんですか!!」
「何でって…私の猫に慣れ慣れしいからッス!!おまけに、白ウサギを傷つけたし…私もダイヤの女王も怒ってるッス!!」
「え?あの…どういうことで…」
「猫はハートの女王のモノではござらん。白ウサギを傷つけたというのも、あれは事故でござるよ」
「黙るッス!!」
女王陛下は銃口の向きを時間くんの額に向けた。私がかばっているので心臓は撃たれないだろうけど、私よりも頭二つ分背が高い時間くんの頭までは庇えない。どうしようかとあたふたしていると、「お前がいなければいいッス!!」と怒鳴ってピストルを発砲した。時間くんは自分がしゃがむのと一緒に私の頭を押さえて私をしゃがませた。間一髪。弾はガァン!という大きな音とともに扉に埋め込まれた。
「…ッ!!チ…チェ、シャ…猫!!チェシャ猫!!そこにいるんでしょ!?助けて!!」
大きな扉を叩きながら叫ぶが、チェシャ猫と言う単語は女王陛下にとっては火に油を注ぐようなものだった。「チェシャ猫…?何で私の猫の名前を知ってるッスか!!」と叫んで再び発砲した。
 
もう終わった。そう思ったが、突然頭の中でジリリリ、と時計のアラーム音がし、気がつくと私はチェシャ猫に抱きしめられるような形でチェシャ猫の腕の中に収まっていた。今までいたお城はなく、私たちは先ほどの公園に舞い戻っていた。状況が把握できずキョトンとしていると、落ち着いた声でチェシャ猫が言った。
「よォ、首は繋がってるか?アリス」
至近距離でチェシャ猫はニヤリと笑った。抱きしめる腕の力は緩めず、片腕で私を抱きしめもう片手で私の喉元をなぞった。
「ククク、心臓とられなくてよかったなァ」
「まったく…相変わらずハートの女王は短気でござるな」
「俺ァ、アイツは嫌いだ」
「チェシャ猫はハートの女王のお気に入りでござるからな」
「いい迷惑だ」
楽しそうに私の両頬をつねりながら時間くんと話さないでください。腕の中から解放されたのはいいけど、痛いです。
「お前もお前だ。何回もアイツにちゅかまりゅんじゃにぇーよ」
チェシャ猫の頬をつかみ返すとあからさまに不機嫌そうな顔をし、つねる手に力を入れた。しばらくして手を離し、私の鼻をつつくと時間くんに向き直った。
「オイ、時間を動かせ。バラが眠らねェとバラ園を通れねェ」
「ふむ、そうするでござる」
バラ園とは反対の方向に歩いて行く時間くんを置いて私達はバラ園の方に向かった。
「時間くん、いいの?」
「気にすんな。アイツは一匹狼なんだよ」
「ふーん…」
 
人気ブログランキング【ブログの殿堂】

スポンサーサイト



第七章 女王様のお城

 
公園から少し歩いた端の方にバラ園はあった。入口らしき所はバラがアーチのような形になっていて、辺りは植木によって囲まれていた。私がそこを潜ろうとした時、チェシャ猫に腕を掴まれた。
「なに?」
「ちょっと待て」
チェシャ猫は掴んだ腕を引っ張って私を下がらせると、地面に転がっていた石をバラ園の中へ向けて投げた。その瞬間、大量のバラの蔓が蛸の足のように一斉に石へ向かって伸び、しばらくして各々の蔓が元あった場所へと戻るとそこには粉々に砕けた石だけが残されていた。もしあのままバラ園へ入っていたら、考えただけで寒気がした。
「まだ寝てねェな…。あの野郎…また捕まりやがったな…」
チェシャ猫はぶつぶつと独り言を言い、私をチラリと横目で見た。
「…?」
「…仕方ねェ」
そう言ってチェシャ猫が右腕を真横に伸ばした瞬間、一瞬だけ浮遊感がし、次の瞬間には大きなお城の扉の前にいた。おとぎ話の挿し絵でよく見た大きなお城。扉は開いていて中が見える。お城の中はタイルの敷かれた大きな広間が広がっていて、高い天井には大きなシャンデリアが吊るされていた。夢にまで見た本物のお城にやや興奮しつつ中に入ると、チェシャ猫の「アリス、時間くんを探せ。…何を聞かれても俺と白ウサギのことは喋るな。それから、首と心臓に気をつけろよ」と言う言葉と、バタンという大きな音と共に扉が閉められた。
「うそっ!チェシャ猫!!」
再び扉を開こうにも、大きな扉にはどこを見ても取っ手らしきものはついておらず、どこかを引っ張って扉を開けるというのは無理だった。ので、力一杯押してみても扉はピクリとも動かず、扉の向こうにいるであろうチェシャ猫に声をかけても返事は一切なかった。
出られないのなら仕方ない、と腹をくくり、時間くんとやらを探すために広間にある数個の扉のうちの一つを適当に開けて中に入った。中は大きなテーブルと数個の椅子だけがある殺風景な部屋だった。
「どこだろう、ここ」
「どちら様?」
「!!」
誰もいないと思っていた私は突然の声にかなり驚いた。声のした方を見ると、白いエプロンを着けて片手に包丁を持った女の人がいた。見た目は触覚も獣耳もついてない、普通の人間だ。女の人は私と目が合うととても嬉しそうに笑い、私に走り寄ると突然抱きついてきた。
「わっ!」
「おかえりなさい!私たちのアリス!」
慣れない抱擁での挨拶に固まっていると、女の人は「あら、ごめんなさいね」と言って私から離れ持っていた包丁をテーブルの上に置いた。
「覚えてない?まあ…アリスは小さかったものね…。私はこの城の料理長のオタエ。よろしくね」
「あ、はい」
差し出された手を握って握手をすると、オタエさんは嬉しそうな顔で私と握手した方の手を見ていた。そして、数ある椅子の中で私に一番近かった椅子を引いて私に座るように促すと先ほど置いた包丁を持って厨房らしき場所へとスキップするように歩いて行った。いい人そうだったが厨房へ向かう時に呟いた一言で血の気が引いた。
「アリスはどこが一番美味しいのかしら」
…どこが一番美味しいか、『美味しい』という単語から真っ先に思い浮かぶのは『食べる』。
私を、食べる気だ。
今はオタエさんは厨房に行っている。厨房からこちらは見えない。今の隙に逃げよう、と椅子から立ち上がり扉の方へ歩いて行こうとした時、真後ろから声がして私の心臓は飛び上がった。
「アリス、どこへ行くの?」
「…ッ!!」
驚くもつかの間、背中を押されて私はうつ伏せの状態で倒れ込む。倒れた私の上にオタエさんが乗しかかった。食べられてはたまらない。私は足と手をばたつかせ全力で暴れた。だがあまり効果はなく、オタエさんが背中から退くことはなかった。
「…退いて!退いてったら!!」
「どうして?」
「あなた!私を食べる気でしょ!!」
「まあ…食べたりなんかしないわ」
「え?」
食べたりしない?その言葉に一時的に暴れるのをやめる。だが、オタエさんの次の言葉で一時的に暴れるのをやめるのをやめた。
「ただ…料理するだけよ」
「一緒だぁぁ!!誰か!助けて!!」
 
「何をしているの?」
 
また女の人の声が頭上から聞こえた。その声がした瞬間に今まで私の背中に乗っていたオタエさんが降り、自由になった身体で声の主を見上げた。そこには薄紫色の長い髪に赤縁の眼鏡をかけてこれまた薄紫色のおとぎ話に出てくるお姫様が着ているようなドレスを着たパッと見は普通の人間の女の人がいた。
「女王陛下、今ちょうどアリスを料理しようとしていたところです」
と畏まった喋り方でオタエさんが言う。女王陛下…女王様!?イモムシに聞いた怖い噂を思い出して冷や汗をかく。
だが、目の前の女王様はそんな怖い噂なんかが嘘のように綺麗な人で、オタエさんに「アリスを料理したりなんかしたらダメ」と言うと私の手をとって立ち上がらせると丁寧に服を払ってくれた。そして、ニコリと微笑んで私の手を握ると「アリス、こっちへいらっしゃい」と言った。
私は女王に導かれるままに、今いた部屋から再び広間へと出て行った。
 
人気ブログランキング【ブログの殿堂】

第六章 キチガイお茶会

 
いつの間にあんなものが置かれたのか不思議だったが、この国は何でもありのルールなのだろうと勝手に納得してチェシャ猫の言う通りにその場へ向かった。
 
…それが、30分くらい前のこと。歩けど歩けど蝋燭の火が灯るテーブルの元へとたどり着けず、全力で走っても周りの景色も全く変わらない。
「はぁっ…はあっ……チ、チェシャ猫…ッ!」
「どうした?」
なのにチェシャ猫は顔色一つ変えていない。私と同じくらい歩いたり走ったりしたのだから少なからず息があがっていてもいいはずなのに、なにくわぬ顔でそこにいる。
「こ、れ……いつたどり着くの…ッ!!」
「いつだろうな」
と、欠伸をしながらチェシャ猫は答えた。い、いつだろうなって!!答えになってない!!
「まだ三月ウサギが着いてないんだろ」
「…え…?」
「三月ウサギが着かなきゃ3時にならねェ。3時にならなきゃお茶会が始まらねェ。お茶会が始まらなきゃあの場所へは着けねェ」
なるほど…三月ウサギという人がこの公園に来なきゃ3時にならないからお茶会は始まらない、お茶会が始まらなきゃあの場所へは永遠に行けない…と。それを先に行ってほしかった。脱力し、ため息をついてその場にしゃがみこむ。チェシャ猫もしゃがみ「だらしねェな」と言った次の瞬間、私の体はフワリと持ち上げられた。
「っな!」
今私はチェシャ猫に抱き抱えられている。所謂、お姫様抱っこで。
「チェシャ猫!!」
「何だ」
「降ろして!」
「何でだ」
「お、重いから!」
私は太っているわけではないが痩せていると言うわけでもない。私がそう言うとチェシャ猫は眉を潜め、「重くねェ」とだけ言いまた歩きだした。
「う、嘘っ!重いでしょ!」
「アリスは軽いモンだと決まってる」
「は?」
「アリスは軽く、持ち運びができる。だが雲は重い、だから空に浮かんでねェ。わかったら黙ってろ」
これもこの国の常識なのだろうか…。とにかくチェシャ猫が軽いと言うのならそれでいいや、と大人しく腕の中に収まっていた。
 
しばらくして公園の景色が動いたと思った次の瞬間には、私は椅子に座っていた。
「へ?あれ?チェシャ猫?」
チェシャ猫の姿が消えたため、辺りを見回していると、「あ、アリス!!」と言う声がした。そちらを見ると、よく紳士がかぶっているような帽子をかぶり眼鏡をかけ、ちょっと大きなカッターシャツに赤い蝶ネクタイをした中学生くらいの青年と、オレンジ色の髪の毛から茶色いウサギの耳がはえた色白の女の子がいた。女の子が多分、チェシャ猫の言ってた三月ウサギだろう。
「おかえり、僕らのアリス。やっと帰って来たんですね」
「遅いんだヨ。3時になってどれくらい経ったと思ってるアルか」
「君だって遅刻したでしょ!さあアリス、食べてください」
青年は蝋燭やお皿、コップ、ティーカップ、ナイフとフォークにスプーン、時間が全て3時の時計が散乱するテーブルの中から大きなケーキを掘り出し、適当な大きさに切るとそれを近くにあった皿にのせて私に差し出した。
「フォークは適当に選んでください」
「あ、あの…」
「アリスは来るのが遅いネ」
ぶつぶつと不服を言う三月ウサギの方を見てギョッとした。ケーキを…皿ごと食べている。それに対して青年は何も言わない。いや、青年もおかしい。ティーカップではなくコップを逆さにし、コップではなくスプーンに紅茶を注いでいる。そして驚くべきはその紅茶の行方だ。スプーンに大量の紅茶を注いでいるのだから溢れるはずなのに、一滴も溢れずスプーンの上に溜まっていく。
「うあ…」
「紅茶です。どうぞ」
「帽子屋、私にはないアルか」
「はいはい」
スプーンの上に並々と盛られた紅茶。スプーンに乗りきらずにスプーンをはみ出ている。横にではなく上に向かって。だが驚いている時間はない。本来の目的は「白ウサギを捕まえること」だ。
「あ、あの」
「はい?」
「白ウサギの居場所しりませんか?」
私がそう言うと今までケーキを(皿ごと)食べていた三月ウサギが「ダメアル!!」と叫んで思いっきりテーブルを叩いた。その衝撃でガシャンと音を立ててテーブルの上にあった皿やコップが下に落ち、割れた。
「なんてことをするんですか!」
割れた食器をかき集めながら言う帽子屋さんを放って、三月ウサギは続けた。
「白ウサギなんて追いかけちゃダメヨ!!」
「な、何で?」
「アリス!やっと帰ってきたのに…何で白ウサギなんか追いかけるアルか…?」
「え?」
「ここにいればアリスは一人じゃないヨ。ずっと私達が一緒にいてあげるネ。だから白ウサギなんか追いかけないで?アイツはアリスを一人ぼっちにする」
泣きそうな声で三月ウサギはそう言う。何を言っているのか分からない…が、先ほど思い出しかけた何かがまた蘇る。
 
思 い 出 し て は い け な い
 
なぜかそんな気がして何とか本題に入ろうと話を戻した。
「私は…白ウサギを捕まえなきゃいけないの。白ウサギの場所、知らない?」
「…そうアルか…アリスは、白ウサギを捕まえに行くアルか…」
三月ウサギがうつ向きそう呟いたかと思うと、テーブルの上にあったナイフを掴み私に乗しかかってきた。反動で椅子ごと後ろに倒れた私は背中を強打した。
「い…たっ……う…」
「そうヨ、白ウサギを追いかけられなくしてしまえばいいアル。そうすれば、アリスはずっとここにいれる、孤独じゃなくなる」
「なに…言っ……」
「大丈夫、足を一本切り落とすだけアル。すぐすむネ。だからアリス、ちょっと大人しくしててネ」
そう言って三月ウサギは私の両手首を片手で掴み頭の上に縛り付ける。そして膝で私の足を押さえつけ片手に持ったナイフを高く振り上げた。
足を一本切り落とす。三月ウサギの先ほどの言葉を思い出し血の気が引いた。本気だ。
「た…助けて帽子屋!!」
ダメだ。食器が割れたことが相当ショックだったのか、その場にうずくまって肩を震わせていた。
次の瞬間に三月ウサギのナイフを持った手が振り下ろされた。もうダメだ。覚悟を決めてギュッと目をつむった。
 
…が、痛みはない。恐る恐る目を開けてみると、三月ウサギのナイフを持った手が私の上にいる誰かの手で掴まれていた。目線を上にうつすとそこには怒った表情のチェシャ猫がいた。
「チェシャ猫……」
「案内…屋…ッ!」
「…何をしてんだ?テメーは」
三月ウサギの表情が恐怖に染まっていくのがわかった。ナイフを持った手や私の足を押さえつけている足もブルブルと震え、目に涙が溜まっていく。
「三月ウサギ、聞こえなかったか?…アリスに何をしようとした?」
チェシャ猫は怒りを露にして言った。その瞬間に三月ウサギは飛び退くように私の元から離れ、テーブルの下に潜り込んで自分の頭を抱くようにしてうずくまると、「ごめんなさい…もうしないから…ごめんなさい許してください」と繰り返した。何が何だかわからないが、チェシャ猫にとても怯えているということだけはわかった。
「アリス、怪我はねェか?」
「う、うん」
「そうか」
私を立ち上がらせたチェシャ猫は帽子屋さんの元へ歩み寄った。帽子屋さんはチェシャ猫に気付くとビクッと肩を震わせ怯えた目でチェシャ猫を見上げた。
「ごめんなさい…殺さないで…」
「…白ウサギはどこへ行った?」
「ババ、バラ園です。バラ園の中です」
「…そうか」
チェシャ猫はガタガタと震える帽子屋さんから離れると私を呼んだ。
「バラ園だとよ」
「そ、そう」
「さっさと行くぞ」
チェシャ猫って怖がられてるのかな…と震える二人を見つつ、私達は公園の少し離れた場所にあるバラ園へと向かった。
 
人気ブログランキング【ブログの殿堂】

第五章 記憶の果て

 
「あ」
薄暗く巨大な路上を歩いている時にあんこの存在を思い出した。イモムシさんにもらった小さな小瓶の蓋を開け、目をつむりイチゴジャムの時のような症状を覚悟しあんこを一口食べる。…が、特に症状は何も起こらない。恐る恐る目を開けると、路上は見慣れた元の大きさに戻っていた。今まで小瓶を持っていた方の手を見ると、小瓶が米粒くらいの大きさになっていた。
「元に戻った!!」
「イモムシに会ったか」
「うん!…って、キャー!!」
真横から声がしそちらを見ると、そこにはチェシャ猫がいた。さっき会った時は私と同じくらいの大きさで今私は元の大きさに戻ったからチェシャ猫はかなり小さいはずなのに、今も私と同じくらいの大きさ。そしてやはり私より十数センチ背が高い。薄暗い中で見る黒ずくめのチェシャ猫はとても不気味でかなり驚いた。
「びびびびびっくりした!」
「うるせーからいちいち叫ぶんじゃねーよ」
「い、いつの間にいたの?」
「猫はアリスといつも一緒にいるもんだ。俺ァいつでもアリスの側にいる」
「そ、そうなんだ…」
チェシャ猫は何でもないような顔でそんなことを言う。軽く告白に近い言葉を真顔で言われるとこちらが照れてしまう。…でも、いつでも側にいるって…さっきはいなかったクセに…
そんな会話をするうち、小さな公園にたどり着いた。
「ここ…私の家の近くにある公園だ」
落ち着いてよく見ると、この公園も団地も、全て私の住んでいる場所にそっくりだ。だが、通行人は一人もおらず、車が通らないどころか街灯以外の光は一つも灯っていない。
公園を見渡すと、公園の端にあるブランコに小さな少女が座っていた。私は引き寄せられるようにその少女に近づいた。
「うっ…ひっく、ごめんなさいごめんなさい」
私に気づいていないのか、その少女はただ泣いている。誰に対しての謝罪かは知らないが、ただひたすらにごめんなさいと繰り返す。
「ごめんなさいごめんなさい…いい子にするから、おかあさん」
「アリス、ダメだ」
チェシャ猫がそう言い、私が少女に伸ばした手を掴んだ。だが私は何かに取り付かれたかのように少女に手を伸ばし、泣き続ける少女の小さな肩に触れた。
その瞬間だった。
 
 
『本当にお前は疫病神だね』
 
『お前なんか産まなきゃよかった』
 
『あんたなんかうちの子じゃない』
 
『役立たず』
 
『死んじゃえばいいのに』
 
『ごめんなさいお母さん』
 
『いい子にするから』
 
わ た し を 、 愛 し て
 
 
「アリス!!」
「チェ…シャ……猫…」
頭の中に「誰か」の記憶が流れ込んできた。忘れていた「何か」を、「誰か」の記憶で蘇りそうになった。その記憶の中に引きずり込まれそうになった時、チェシャ猫に名前を呼ばれ我に戻った。
少女の姿は消え、私はいつの間にか泣いていて、足はガクガクと震え立っていられなかった。その場にヘタリと座りこみ涙を流していると、チェシャ猫はしゃがんで私の涙を拭い頭に手をおいた。
「アリス、泣くな。お前は何も悪くねェ。だから、泣くな」
どこかで聞いたセリフを言われ、手の置かれた部分が暖かく感じた。チェシャ猫の言葉はまるで催眠術のように頭の中に響いた。その瞬間私の涙はピタリと止まり、今まで心の中を支配していた悲しみも消え去った。
「…立てるか?」
「うん」
先ほどの足の震えも嘘のように止まり、すんなりと立ち上がれた。涙を拭い服についた砂を払っていると、チェシャ猫は「早くいかねェとお茶会に送れるぞ」と言い、私の腕を掴んで公園の一角を指差した。そこにはいつの間にか大きなテーブルが置かれ、テーブルの上にあるたくさんの蝋燭がその場を照らしていた。
「なに…あれ」
「…3時のお茶会が始まる」
3時?今は薄暗く、昼の3時ってことはありうないから…朝の3時?
「こんな時間にお茶会?」
「いいから、黙って歩け」
 
人気ブログランキング【ブログの殿堂】

第四章 イモムシの忠告

 
扉をくぐると一瞬目の前が真っ白い世界に包まれた。そして次の瞬間には巨大な花と小さな花が広がる一面の花畑が広がっていた。さっきまでの薄暗い部屋が嘘のようだ。頭上には雲一つない真っ青な空が広がり、巨大な花の上を蝶々が飛ん…飛ん……
「何あれ!!」
それは蝶々ではなかった。いや、蝶々のように大きい羽を羽ばたかせて飛んではいるが、その羽が問題だ。食パンだ。羽が食パンでできている。薄く切られた食パンに赤やオレンジのジャムが塗ってあり、それが普段よく見る蝶々本体の背中にくっついている。
普段よく見る蝶々と言っても今の私から見ると特大サイズで正直気持ちが悪いのだけど…
たった今私がくぐってきて先ほどまでそこにあった扉は消えていた。
「まあ…今更だなぁ…」
ここに来るまでに色々あったため扉が消えるくらいでは驚かなくなってしまった。…蝶々には驚いたけど…
「イモムシってどこにいるのかな…?」
イモムシを探し、足元を見ながら歩いていると…花が喋った。
「イモムシなら花の上よ」
「ふわぁお!!!!」
さすがにこれは驚いた。今まで黙ってそこに咲いていた小さな花に人の顔が浮かび、喋ったのだから。これに驚かないのはここの住民くらいだろう。
「おかえり、私たちのアリス。イモムシはあの蔦を登った上にいるわよ」
花さんは葉っぱで少し離れた場所にぶら下がる蔦を指した。多分葉っぱが手なのだろう。
「あ、ありがとう…ございました」
「ふふふ、気をつけてねアリス」
…森の妖精さんといいチェシャ猫といい花さんといい…なぜここの住民は私をアリスと呼ぶのだろう?たしかにアダ名はアリスだけど…
 
やっとのことで蔦をよじ登ると、そこにはストローのようなものを口にくわえ、鼻歌を歌いながら青やら黄やらの彩りどりのシャボン玉を大量生産する人物がいた。赤いコートを着て古風な下駄を履いた黒い毛玉のようなもじゃもじゃ頭のその人は、パッと見は普通の「人」だ。
「あのー…」
「ん?」
「!!」
開いた口が塞がらない。まさにその状況だ。後ろ姿は獣の耳も尻尾もない。が、振り向いたその頭…いや、オデコからは二本の立派な緑色の触角が生えていた。
「おー、おかえり、わしらのアリス!」
人の良さそうな満面の笑みを浮かべ私の肩をバンバン叩くその人。私の肩を叩く度に触角が上下に揺れる。
「イ…イモムシさん…?」
「いかにもわしがイモムシじゃ」
こんな赤いコートを着て古風な下駄を履き、サングラスをかけた毛玉みたいなもじゃもじゃ頭をしたイモムシは初めて見ました。
「あのー…」
「おんしも吹くか?」
「いや…いいです」
っていうかそれ、私が吹いたら間接キスになりますよね。その下心の感じられない笑顔から察するに別に気にしてないんでしょうが…
「あのですね、」
「花が喋ったじゃろー」
「は、はあ…」
「突然喋るからのぉ…驚いたもんじゃー」
「あの、」
「わしゃ星は好きじゃが花は苦手じゃ」
「あ、」
「星は花と違って余計なことを喋らんからのぉ」
「イモム、」
「花はハズレに当たると二時間近く永遠に喋る奴がおるからのー…特にパンジーの奴が―」
「………」
…チェシャ猫がイモムシさんに会いたくないって言った理由がわかった気がする…。うん…チェシャ猫の言ってた通り…イモムシさん…はっきり言って…ウザイ…
「…待て待て、なぜ帰ろうとしとるんじゃ」
「…さよなら」
「アリス、」
背後から急に今までとは違う、真面目な声がしたため思わず振り返る。と、目の前にイモムシさんがいた。
「わっ!」
「アリス、」
イモムシさんは再び笑顔を浮かべると私の右手をとり、小さな小瓶をのせた。
「…え?」
「あんこが欲しかったんじゃろう?」
「あ…はい」
「持っておいき。それから、」
イモムシさんがパチンッと指を鳴らすと、今まで私の体を包んでいた学校の制服がブルーのエプロンドレスに変わった。いや、全体的に不思議の国のアリスに出てくる「アリス」の格好に変わった。
「その格好じゃないと、住民にナメられるきに」
「え?」
「それから、アリス」
また真面目な表情になったイモムシさんに少し戸惑う。
「は、はい」
「チェシャ猫は、心を惑わす案内屋じゃ。絶対に…絶対に惚れてはいかんぞ」
心を惑わす案内屋?チェシャ猫さんが?たしかに口は悪いし雰囲気も悪い感じだし自分勝手だけど、『絶対に惚れてはいけない』って言うほど悪い人じゃないと思うんだけどな…
「アリス、案内屋に惚れると…ハートの女王に心臓を喰われるぞ」
今まで下心も悪意も感じられなかった無邪気な笑顔から突然黒い笑みに変わったイモムシさんとその言葉に悪寒が走った。心臓を…喰われる?
「せめてトゥイートル兄弟かわしにするといいぜよ。白ウサギやビルに惚れると、ダイヤの女王に首を狩られるからのぉ」
無邪気な笑顔を浮かべ肩をバンバン叩いてくるイモムシさん。苦笑いしか浮かばない。
この国の女王は怖い人ばっかりなんだな…
「まあー困った時は大声で叫べばよか!アッハッハッハッ」
「は、はい…」
「気をつけてのぉー」
大きな花の上から笑いながら手を振るイモムシさん。何で私の欲しかったものがわかったんだろうと思いながらイモムシさんが見えなくなるまで手を振り返して歩いて行くと一瞬で景色が暗闇に包まれた巨大な路上に変わった。
 
私はイモムシさんの忠告に胸騒ぎを覚えながらもその道を歩きだした。
 
人気ブログランキング【ブログの殿堂】